VALOR DEL CORAZON  GiNGER 
2005.12リリース / P&C ROUND RECORDS 

disc1
01. Ugly
02. Mother City
03. G.T.T.
04. Yeah, Yeah, Yeah
05. This Is Only A Problem
06. Ten Flaws Down
07. Paramour
08. The Man Who Cheated Death

disc2
09. The Drunken Lord Of Everything
10. L.O.V.E.
11. The Way
12. Drinking In The Daytime
13. Keep It Cool
14. Only Lonely
15. Your Mouth
16. Change
17. My Friend The Enemy
18. Bulb
19. Something To Believe In

produced by Ralph Jezzard
 

90年代を代表する天才ソングライターと一部で言われる、ワイルドハーツのジンジャー。彼ほど不器用でまた率直に行動している男は、音楽業界を見渡してもなかなかいないだろう。昨年2月末に予定されていたワイルドハーツの来日公演を何度目かの“解散”という理由で中止にした後、訪米しトレイシー・ガンズ率いるブライズ・オブ・デストラクションに電撃加入したと思えば、数週間のアルバム制作に携わった後、大方の予想通り速攻脱退。そのまま、米国に滞在しリッキー・ウォーリックのソロライブに飛び入りしたりしながらも、長年連れ添ったガールフレンド(二人の間に二子あり)との訣別の傷心をケアしながら、何と初のソロアルバムの制作に突入していた。

5〜6月に自身のサイトでウィリー・ネルソンのスタジオでのレコーディング状況が公開し、ミュージシャン間で流行っているmyspaceでも新曲がいち早く発表された。久々の新曲は久々の名曲であり、期待が募るばかりであった。その後も6月に恒例のアコースティック・ソロツアーを敢行したと思えば、9月に英国のとある古城で行われた50周年のフェス出演を依頼され、何回目かのワイルドハーツ(他のメンバーはCJ、ダニー、リッチ)再結成を行い、テラーヴィジョン、ハノイ・ロックス等を従えヘッドライナーとして出演。ライブの模様は撮影されたのでこちらもいづれ初のDVDとして発売されると噂されている。

そしてワイルドハーツ再結成の話題に盛り上がり、ソロアルバムの存在を忘れつつある時期に、何と1/8に発売決定とのニュースが!また、12/19に一足早いクリスマスプレゼントとし、1,000枚限定で先行発売される予定だった。・・・が、ジャケットにミスプリントが見つかり発売は遅れた模様。実際、どうなったかは定かではない。自分の手元にあるCDも限定なのか通常盤なのかも分からない。

とにもかくにも、ようやく届いたニューアルバム。2枚組19曲入り。2枚合わせて160分ではなく、レコーディングしたものを一枚に絞ることが出来ず、全曲で78分になったので2枚に分けたそうだ。正直聴いてみるまでは全く期待していなかった。このアルバムはシルヴァー・ジンジャー・5の『ブラック・レザー・モジョ』('00)後、ソロとして12ヶ月連続シングル(発売後、タイトル曲12曲を収録したアルバムとして計画されていた。実際は5枚のシングル発売で挫折。その後、既発のシングル全曲をまとめプラス発売中止になった楽曲も収録し『ア・ブレイキング・ウェザー』('05)(以前に書いたレビューはコチラ)としてリリースされた。)をリリースする予定であった通称シングルクラブで発売された楽曲には、以前の彼独特のスウィートなメロディの欠如により、遂に彼の才能も枯れてしまったのではないかとファンの期待を奈落の底に落としてしまったものであったが、再結成ワイルドハーツ後に発売された『ワイルドハーツ・マスト・ビー・デストロイド』('03)や(以前に書いたレビューはコチラ)その前後のシングル(B面を含む)でシングルクラブよりは良い曲に安心をさせられたものであった。

実際、ポップ、メタル、カントリー、ブギー、バラード、サイケデリックなインストとレッド・ツェッペリンの『フィジカル・グラフティ』('75)に勝るとも劣らない、噂通りアイデア満載のバラエティに飛んだ内容であり、彼のキャリアにおいても最高傑作になるのではないか。当然ながら、ワイルドハーツと比較する人もいると思うし、このスウィートなメロディを受け付けない人も多いだろう。しかし、もうそろそろこの多彩なアイデアを持つジンジャーをヘヴィ・メタル、ハードロックの範疇でしか語らないのは止めにした方が彼にとってもプラスになると思うのだが・・・

今回のアルバムのプロデュースを手掛けたのは、以前にワイルドハーツの『エンドレス・ネームレス』('97)でハチャメチャなサウンドに手掛けたラルフ・ジェザード(98年の解散後にリッチとグランド・セフト・オーディオを結成。今となっては懐かしい話ですね。)とジンジャーの共同プロデュース。今作ではジンジャーはヴォーカルは勿論のこと基本的にギター、ベースをほとんど演奏しているんですよね。

1枚目からの感想ですが、@のヴォーカルのひずみ具合を聴いて、もしかしたらラルフ・ジェザード?と思いクレジットを確認したら予感的中。ワイルドハーツでやってもおかしくない曲です。「ラヴ・バンク」、「サウンドドッグ・バビロン」タイプ。AではSG5でもやってもおかしくないポップなブギー。そしてBでビックリさせられることになる。『スクリーマデリカ』('90)の頃のプライマル・スクリームとビートルズを足して二で割ったかのようなアシッド・ジャズを何と生音で実践!普通打ち込みでやった方が格好良いと思うのですが。ジンジャーのファンク風のギターカッティングも下手ウマで微笑ましい。CDFとシングルクラブで実践し、結果を出したかったようなポップな楽曲ですね。Eはmyspaceで2番目に発表された曲。正直あまり印象は今までよくなかったけどこうやって聴くと悪くない。ただ後半の展開がですね、正直いらないんでは無いかなと思ったりもします。Gはmyspaceでいち早く発表された名曲。これが実に素晴らしいバラードなんですよね。彼の復活を印象づけてくれました。ここまで約33分。実に充実しています。

2枚目に移り、Iはほぼインストなのですが、キャシー・・クラハンという人がゲスト・ヴォーカルを。JではAメロがポップなんだけど、壮大なバッキングコーラスにバッキングのギターがヘヴィな曲。チャイニーズ・ボックス(?)をジンジャーが演奏しています。そして、Kは間違いなくこのアルバムのハイライトになると思うのですが、スライド・ドブロが実にカントリー風に穏やかに始まったかと思うと、スクリームから一転してメタルへ!「O.C.D.」をもっとヘヴィにリフをバリバリに効かせたかのような感じです。勿論、プログレメタルバンドほどではありませんが。そしてフックのあるメロディの嵐という感じでしょうか。並のバンドのアンセム3曲ほどのアイデアをこの1曲に凝縮した新たな名曲の誕生と言えるでしょう。ライブで観てみたいですね。Lでは2枚目でよく感じるアメリカ南部のほのかな香りは、ギターのタッチからも感じることができるのかもしれないですね。MはSG5路線。歌詞が切ないに尽きますね。Nはピアノとヴァイオリンによる弾き語り。こちらも切ない・・・ Oはミドルテンポですが非常に甘いです。並のアーティストであれば先述のKで終わるのですが、PQで最後の男気(ロック)を見せてくれます。基本的には3ピースですね。Qではギターソロも弾きまくり、こんなジンジャー観たことないです!最後のRでは何を信じるかってことですかね。こちらも甘〜く締めています。

予算的な問題なのか、ミックスが今ひとつなような気がするけど、ジンジャーの好みの音質って『エンドレス・ネームレス』('97)や『トウキョー・スーツ・ミー』('99)の例もあるので、今回の篭もった音質は狙ったものかもしれないので何とも言えないのですが。

個人的見解ですが、結論を言いますとワイルドハーツはもういらないんではないでしょうか。勿論彼らの今まで残してくれた名曲群は今でも大好きですし、再結成され来日公演があれば見に行きたいですけど。'01〜'04に活動したバンドも当初はみんなで曲を持ち寄って、非常に民主主義的なバンドでした。アルバム発売後も外野から見る限りダークネスのサポートによってアメリカ、ヨーロッパツアーを行い、各地でもレコード契約が決まりアルバムを発売され順風満帆に見えた活動も、結局人間関係もあり解散してしまいました。ジンジャーのように繊細な完璧主義な天才にとって思い通りにならないバンドは、彼の足枷にしかならないでしょうし、今までバンドではできなかったアイデア満載の大傑作を作ってしまうと、次は大丈夫なのと心配になってしまいますが。正直バンドではなくオジー・オズボーンやリッチー・ブラックモアのようにメンバーを雇ってソロとして活動してくれた方が、よっぽど良い結果が出るのではないかなと思ってしまうのです。

とりあえず、ロンドンで1/27にニューバンド(?)、ジンジャー・アンド・ザ・ソニック・サーカスとしてライブが決まっています。去年のことは全部帳消し。許す!(笑)早く日本のレコード会社もリリースしてちょうだいな。そしてソロアルバムのツアーを!!!今年も彼から目を離せそうにない。

もうねー、ストロークスどころじゃないっすよ(爆)

<お薦め度>★★★★★
2006/1/10